酒の紀元は、スサノオノミコトに始めります。尊が高天原のおわれ、根の国に入って八塩折の酒を造り、大蛇を退治してクシナダヒメを救った「古事記」の神話は、同時に造酒の創元を語るもので、これが日本の書史に現れた酒の初めでしょう。

そのかみ、足名椎、手名椎に命じて、作らした八塩折の酒は、いかなるものか、「日本書紀」の一巻、「スサノオノミコトこれにおしえていわく、なんじしゅうかをもってさけはちかめをじょうすべし」とあるのを見れば、果実から造ったものとも想像されますね。

尊が出雲の簸の川で酒を造られてこの方、酒に関して史上に現れた主なるものは、神武天皇のぼごの冬十月、道臣命に密旨を含め、いりょを刺さしめた当時の造酒のこと。
ならびに、くつべを丹生の川に沈めて祝し給い、「朕、能く此の国を定むるを得ば魚は大小となく、皆酔ふて流れよ」と宣われ、川魚を酔わし、流れと共に魚が尽く流れ去ったという事蹐でしょう。

また、景行天王の御代、日本武尊を征服し給うや、酔いしれたるぞくかい川上のたけるを、宴席に刺殺した古記も有名です。
次に、たけうちのすくねが朝廷から酒宴を賜りながら、門下に侍して非常の備えをなし、帝の嘉賞を受け、棟梁の臣に任じられたこと。
あるいは、仲哀天皇西征の途中、海上において海魚に酒を注ぎ、海魚皆酔うて波上に浮かび上がったことなど、いずれも酒に関する史記です。

これをもってしても、酒が賊徒征服の要に用いられ、災禍を除くために供されたことがわかります。